新MacBookPro17インチモデルのバッテリー考察

http://www.apple.com/jp/macbookpro/17inch-battery/
新しい17インチMacBook Proには、1回の充電で最長8時間駆動する画期的なバッテリーが搭載されています。先端化学と革新的な充電方法により、バッテリーの寿命も典型的なノートブックバッテリーの3倍以上に。すべてを最高に薄くて軽いノートブックで実現しました。

さすがApple!他社ができないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れるあこ(ry
というのはさておき、冷静に詳細を見ていくことにする。
まず、搭載しているリチウムポリマーバッテリーであるが、一般的な缶型リチウムイオン電池に比べ特別エネルギー密度が高いわけではない。

  • 形状の自由度が高い

のが最大のメリットだ。しかしながら他にも色々な要素がある。

  • 日本の町工場の星としてさんざん持ち上げられた「岡野工業」などが得意とする「缶深絞り」が不要であり、日本メーカーが中心のリチウムイオン電池と違って開発、生産ともに中国メーカーが中心。そのかわり多数の中国メーカー同士での熾烈な争いがあり、コスト、性能はすばらしい勢いで磨かれている。つまり「安く」調達できる。
  • 安全性の問題。いや、電池そのものが自然発火したりするケースはまれ。ただし外装がアルミビニール(ウイダーインゼリーみたいなの)であり、カッターやドライバーで簡単に傷がつけられるしユーザーの取扱いによっては危険である。その代わり「軽量」であり、資源ゴミとしても少なくなる。逆に安全に交換できるようにするならば、過剰なケースに入れる必要がある。

つまり、Appleはこのリチウムポリマーバッテリーの特徴を最大限に利用し、

  • 交換不可能=安全性の欠点を覆い隠す。すくなくともユーザーの手に触れなければ問題が起きる可能性はかなり少ない。
  • アルミボディ=発火しても被害が少ない、間違ってドライバーなどを突き刺すケースも少ないと思われる。また安全ケースを兼ねることでデッドスペースを減らし、容量UPと軽量化に貢献する。
  • 実はiPodでは古くから使っており、テストは十分

しかも、これを「環境に優しい」「かつてない大容量を実現」などと美麗美句で飾り立てることにも成功している(ウソではない)いやはや本当に「うまい」と思う。かつて三菱がノートで採用したこともあったが、当時はまだだの分野だった。

また、「すばらしい充電制御」であるが、一般的に言うところのバランスチャージの事だと考えられる。通常一セル3.7Vのリチウムポリマーバッテリー(リチウムイオン電池も)は組セルを使って7.4V〜14.8Vで利用されているが、バランスチャージとは、各セルの電圧を個別にチェックしながら時には放電、時には単セルチャージなどを用いてまんべんなく充電する方式のことである。単セルチャージ式バランサーは、実質充電器を必要セル数内蔵する必要があり、小型化には向かない。なので抵抗式バランサー、もしくは充電ジャックを専用の複数端子にすることでACアダプタ側に内蔵している、もしくは両方、であると考えられる。

ちなみに、かなり高精度にばらつき少なく作られる日本製缶式リチウムイオン電池と違い、中国製リチウムポリマーバッテリーは、このバランスチャージを使わないと10回程度でセルのバラツキが始まり性能の劣化が加速する。ただしバランスチャージを使うならば、イイセルはかなり長持ちする。この辺は過激なRC用電池でかなりノウハウが蓄積されており、バランスチャージの回路もかなり低コストになってきている。アップルの数を調達するなら相当安くなるだろう。

何のことはない。そのすばらしい充電方式(バランスチャージの事)を使わない限り、リチウムポリマーバッテリーの複数セル(iPodなどは1セルなのでこの問題は起きない)はもともと長持ちしないのである。つまり必然的にそうなるのだ。その必然を「画期的な方式」と臆面なく呼んでしまうところがすばらしい。
(けなしているのではない。バランスチャージできるのば良いことであるが、そうしないと使い物にならないのもまた必然なのだ)

最近のアップルがすごいと感じるのはこの辺だ。ある意味リスキーな部材を選びながらも、それをうまくデザイン面や広告文句で「利点」として変換し克服し、しかし実際はコストも下げる。この「誰でもわかっているけど、なかなか決断できない」ことを、さもあっさりとやってのけたように見える。もちろん、iPodAirなど以前から十分に人柱テストをやっている上で、だ。

いやはや、プロダクトプロデュースとしての手腕は本当に天下一品としか言いようがない。一見感性優先に見せながら、緻密な技術生産面での整合性を過去の例にとらわれず、しかしある程度成熟するのを待って、タイミングを計って追求している。そしてそれを実に感性的にデザインして見せ、理屈面は見せないことで、理屈っぽくない人のハートもがっちりキャッチ!

ま、あまりに上手すぎてちょっと鼻につくというか、これにApple提示のお金を出すのは悔しい(なんとなく原価見えるからね。でも先行者リスクのデザイン料込みとしては妥当にも思える)なんで買わないぞ(笑)

今のアップルには知恵やリスクやデザインといった「プライスレス」な部分を見事プライスとして出力する力には、圧倒的なモノがある。

またまた「まいった」である。