あさり氏のGレコ批判はなにがマズいのか?

あさり よしとお氏”Gレコの何が良くて何が駄目か、ちゃんと言えるライターや評論家はどんだけいるのかな?”
http://togetter.com/li/775141

まず、ディテールについての指摘についてはそのとおりだと思う。
個別作品として見て「一般向け娯楽作品」としては不十分過ぎる、という点はごもっとも。
ただ、その原因と解消方法を「おまいらが富野ガンダムっていうだけで支持して持ちあげるから御大がつけあがるんだ!ちゃんと批評しろ!」というところに求めたのが良くない。そもそもバンダイガンダムビジネスが好調でなければGレコが作られることなんてなかっただろう。それ以前に御大作品で「放映中、スポンサーの期待通りの人気と成果」を上げたことなんて一度もないよたぶん。それなのにビッグビジネスになっている「ガンダム」が摩訶不思議なんだ。「伝説の上にあぐらをかいている」という批判だが、それはそのとおりで、あれだけ裏切られ続けたバンダイサンライズもまだ懲りないのかよ、っていうぐらい再び持ち上げる。それはやっぱり「富野ガンダム」がなくなるということは、長い目でガンダムビジネスが死ぬ、ということをちゃんとわかっているからだろう。
なぜ死ぬか。
他のガンダムはやっぱり面白いけどつまらないからだ。面白くても残らないといってもいい。あさり氏のいう「娯楽作品」として優秀なガンダム派生作品をいくら並べてもやっぱりそれは「よく出来たガンダム風のなにか」でしかないのだ。「俺がガンダムだ」と言われてもやっぱりベルリのセリフのほうがガンダムなんだ。もうこれはどうしようもないリズムやイントネーション、方言といってもいい、他の監督ではどうやってもこの方言を話せない。逆に言えばそれがあれば多少の不出来があっても許される、というか許さなかったらどうなるというのだ。いまのガンダムワールドにおいて御大作品が無くなるよりはあったほうがいい、それだけだ。
∀ガンダムも放映中、肝心のメカがシド・ミードのヒゲガンダムでプラモデルなんかも鳴かず飛ばずに終わったが、10年経てばMG100体記念は∀だったし、ターンXもターン∀もMGは再販が何度もかかるほど売れ、スモーはビルドファイターズに出てまた売れ、ガンダムブレイカー2ではロランとギンガナムの掛け合いギャグCMが大好評、そういうスパンでやっと評価される。
一方で、ガンダムが御大の所有物ではなくサンライズバンダイのものだったことも結果的にはよかったのだろう。いくらでも派生作品を作ることが出来る。そっちが面白くて短期的にビジネスを繋いでくれればファンもまたいつか監督が辞めない限りガンダムがつづくと信じられる。
この「関連の立体モデル商品を売るためのロボットアニメと、その縛りの中で映像クリエイターのやりたいことの混ぜこぜと衝突」から生まれた歪なリアリティの手応え、こそがガンダムの魅力の本質だと思う。(SF的リアルということではない、脳で感じる触感のようなモノ)だから、いくら出来が良い作品になったとしてもそこがないとダメなんだ。それがないとプラモデルがほしいと思わない。プラモデルを組み立ててニヤニヤできるのはそれがあるからだ。
(かつて、プラモ狂四郎で「ガンダムプラモが人気がある理由がわかるかい? それはああいった戦車や飛行機の魅力があるからさ。だからマーキングや汚しを入れるんだ」という店主のセリフ、あれはまさに本質を突いている)
この「歪なリアリティの手応え」「脳で感じるロボットアニメの触感」を出すことにおいてはやはり御大は飛び抜けている。あさり氏の批判は映像作品としての批評としては正しいと思うが、たとえ問題点を直して出来が良い作品になったとしてもそこが抜けているとガンダムとしては的外れになってしまう。ガンダムでよく言われるキャラ云々、ストーリー云々で良質なものを目指すだけであればロボットモノでやる必然性そのものがないんだ。立体商品ホビーとセットであることにガンダムの意義がある(たとえファンにプラモに興味が無い人が多くいるとなっても、そこを削ることはガンダムの死を意味する)
コクピットを開けて周囲に人がいるシーンの圧倒的多さ、これが富野演出のキモかと思う。が、ここでのお喋りの多さはあさり氏のいう問題点「余計な会話で進める」「ストーリーと関係ないシーン」「戦闘中がチャチい」等と二律背反的な要素になりかねない。僕が心配するのはそこだ。ストーリーとして良くなったとしてもソコが削られてしまっては立体商品と絡めたガンダムの魅力を削ぐ可能性があるからだ。もちろん、すごくうまくできる人はこの世にいるかもしれないがそんなに都合よく行くものだろうか?ボトムズなど高橋作品はもっと身近な手応えの感触は出せた一方、突き詰めていく過程で「ロボットがほとんど出てこないガサラキ」や「ロボットアニメでなくていい」とFLAGあたりまで行ってしまった。こうなるともうモデルビジネスにならない。)
もちろん、ガンダムの魅力を出しつつ、映像作品単体としても立派でわかりやすく魅力的なもの、が両立する作品が出てくればそれに越したことはない。だが、きっとGレコのネガをつぶしていけばそれが出来るか?といえばそれは保証できない。そこに対する光明を出しておらずファンのせいにしたことがあさり氏の発言のマズいところだ。彼の過去の作品からきっとそういうことには寛容と理解ある人だと思われても仕方がないのに、ああいう物言いをされては「裏切りだ!」と思う人も出るだろう。(まんがサイエンスの成功でカールビンソン時代をなかったコトにしているのか?)
他のガンダムを見続けて「やっぱりダメだ」と御大が立つ。
その時つまらなくても残る。
また派生作品が出る。
やっぱり当時いまいちだと思った奴でも派生作品に比べたらやっぱりちゃんとガンダムだったな。
この連鎖がガンダムになっている。
「つまらないから作るな」
で、こっちから批判してなくす必要なんかない。
Gレコと、今回ビルドファイターズトライ、という「テレビフォーマットとしてこれ以上ないほど詰め込んだ娯楽作」をセットで放映するというバンダイはすごい戦略に出た。おかげで毎週楽しいよ。どっちも。
まあ文句言うとしたら「なんでレクテン(レックスノー)のHGが出ないんだ〜!マックナイフまだー!せめてヘカテはだして〜3バカップル組めないだろ!」ってところかなあ。そういう気分にさせてくれるだけでも、それがガンダムなんだ。
とりあえずヘカテとマックナイフが揃うまでは御大とバンダイを持ち上げ続けないとダメだ(笑)


とりとめもなく膨らんでしまったのでまとめると
・あさり氏の批評は作品単体としてのGレコの良くないところについては当を得たもの。
・富野監督の長所と短所は不可分なところもあり、短所を修正したら作品単体はともかくガンダムワールドとしてよくなるというものでもない(例:キングゲイナー
ガンダムファンは映像作品単体のみを嗜好してファンやってるわけじゃないのでファンへの批判はちょっといかがなものか
・短所を補い長所も活かすスゴイ作品が出てくるといいな、という点についてはそのとおりだと思うが、そううまく行くものではないだろう。良くも悪くもガンダムは富野監督一人の作品ではなくなったので、期待はしつつも現状がダメとは自分は思っていない。
・おまいさんが言うのかい?(お母さん風にw)